人材育成

ジョブ型雇用で重要性高まる高校時代のキャリア検討

日本企業のジョブ型雇用の拡大により、働く側の自己理解と職業理解の重要性が増している。特に高校時代に将来の仕事を見据えてそれらの理解を深めることが、卒業後の進路によらず重要だ。厚生労働省運営の職業情報提供サイト「job tag」は、職業情報の収集や客観的な自己理解の促進に資するツールの一つであり、学校教育でも大いに活用できる。ジョブ型雇用を見据えて、これからの高校でのキャリア教育・進路指導に何が必要か。また、それに対して企業にはどのような対応が求められるか。課題解決へのヒントを探る。

目次

ジョブ型雇用で重要性を増す自己理解と職業理解

ジョブ型雇用の導入が進みつつある。政府が2024年6月に閣議決定した『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版』では、「日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める※1」と述べられており、実際にジョブ型雇用を導入予定・導入済みの企業は6割近くに及ぶ※2

ジョブ型雇用とは「企業の中で必要な職務内容に対して、その職務に適したスキルや経験を持った人を採用する雇用方法」を指す※3。つまり職務内容や求められるスキル・経験などが明確化され、それにフィットした人材が採用される。そのため被雇用者側には、十分な自己理解と職業理解(「自分のやりたいこと」「自分ができること」の明確化、職務内容とそれらの一致状況の確認など)がこれまで以上に求められる。

カギとなる高校時点のキャリア教育・進路指導

自己理解や職業理解を深めるに当たっては、高校段階が一つの重要な時点となる。高校卒業後に就職を希望する生徒は、売り手市場の傾向が強まる※4中、待遇や選考の容易さなどのみで就職先を選ぶのではなく、その仕事が自身の適性や興味関心に沿っているか否かを見極める力をつける必要があるだろう。また、進学を希望する生徒も、学校選びの際に「学べる内容」「取れる資格」を重視する傾向にある※5。この「学べる内容」「取れる資格」をできるだけ自分のキャリアイメージに近づけ、学校選択をより有効にするため、高校在学中(特に文理やコース選択の前など)に将来就きたい仕事を意識することが重要であると考えられる。

高校生が進路を検討し、自己理解・職業理解を行う機会として、学校内では「キャリア教育」や「進路指導」などの場面が考えられる。また、学校外でも、親族や知人などを通じて職業について知ったり、助言を得たりすることもあるだろう。

しかし、これらの場面では、教職員や周囲の人だけの限られた知識や経験の幅、考え方などが、指導・助言の内容に影響してしまうといった課題が考えられる。実際、教員自身が民間で働いた経験がないことが進路指導上の課題となっているとの声もある※6。また、自己理解の深化という点でも改善の余地がある。高校生を対象とした調査では、「自分の将来の生き方や進路について考えるため、指導してほしかったこと」の1位として、「自分の個性や適性(向き・不向き)を考える学習」が挙げられている※7

したがって、地域や指導者・助言者などの違いに左右されず広く職業の情報を集めたり、生徒自身が自分の興味関心や得意不得意などを明確化したりするための支援が求められる。

職業情報提供サイト「job tag」の活用可能性

上記のような自己理解・職業理解を支援するツールの一つとして、厚生労働省が運営する職業情報提供サイト「job tag」が有用である。job tagは、約500の職業について※8、その仕事で行う作業や、必要な技術・技能などの情報をまとめており、求職者などの就職活動や企業の採用活動などをサポートしている※9。「適職を知る」という機能では、いくつかの質問に答えることで自身の職業興味や価値観を把握したり、テストを受検することで職業適性を確認したりすることができる。また、「職業を検索する」という機能では、フリーワード、職種カテゴリー、免許・資格、スキル・知識などの多様な切り口から職業を調べることができる※10。職業の詳細ページを見ると、仕事の概要が文字情報だけでなく動画でも紹介されており、職場の環境や働いている様子などを具体的にイメージできる。また、入職経路や労働条件などの情報もまとめられており、その職業に就くために必要な学習内容や学歴、就業後の待遇などの理解も進む。

出所:厚生労働省職業情報提供サイト(日本版O-NET)「job tag」

job tagはこれまで、転職者を主なユーザーと想定して運営されてきたが、令和5年度事業の中で、教育機関でのキャリア教育や進路指導などでも活用可能であることが示唆された。生徒・学生個人が使用することも可能だが、より効果を発揮するために、教職員のサポートのもとで活用することが推奨されている※11。高校・専修学校・大学などを対象とした実証研究からは、生徒・学生にとって「自己を客観視できる」「客観的な情報を基にした職業理解ができる」などの自己理解・職業理解の深化、教職員にとっては「地域の産業構造などに左右されない、幅広い職業の選択肢を提示できる」「効率的に生徒・学生の特徴を把握し、相談対応などに時間をかけられる」といった進路・支援の幅の拡大などが、job tagを使うメリットとして挙げられている。また営利目的の職業情報サイト・就職活動サイトとは異なり、厚生労働省が運営するjob tagでは、情報の中立性・客観性が担保されていることも、特長として挙げられた※12

企業に求められる職務定義・スキル要件の明確化

job tagをはじめとする支援ツールの活用により、若者の自己理解・職業理解は、今後ますます進んでいくだろう。その成果をより高めていくためには、ツールの活用方法の探索や活用事例の展開だけでなく、ジョブ型雇用を見据えたキャリア教育・進路指導のあり方の見直しや、教職員の指導・支援スキルの向上などの体制整備が重要となる。

一方で、企業側も手をこまねいているわけにはいかない。被雇用者側の自己理解・職業理解が進むほど、十分な職務定義や、スキル要件の明確化ができている企業が、就職先として選ばれやすくなると考えられる。そのため、求める人材を確保するためには、ジョブ型雇用を予定していない企業であっても自社の職務や役職などの再整理を行うことが重要となる。若者の変化に合わせて、企業側にも相応の対応が求められることは忘れてはならない。

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