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サッカーW杯・名将たちのチームマネジメントに学ぶ人と組織の動かし方

開催が近づくサッカーW杯を前に、強豪国はいかにして「強いチーム」をつくり上げているのか、その核心に改めて関心が集まっている。スター選手の有無や戦術トレンドだけでは説明しきれない「強さの再現性」は、どこから生まれているのか。
結論から言えば、そこには競技の枠を超えて通用する共通原則がある。名将たちは偶然や精神論に頼るのではなく、勝利から逆算し、選手一人ひとりが最大限の力を発揮できる環境を意図的に設計しているのである。

本記事では、サッカーW杯に挑む名監督たちのチームマネジメントをひもとき、その思考様式がビジネスにおける組織マネジメント、とりわけ組織運営や人材配置、運用設計にどのような示唆を与えるのかを明らかにしていく。

勝利から逆算するマネジメントとは何か

本稿で扱う「勝利から逆算するマネジメント」とは、成果達成のために必要な状態を先に定義し、そこから役割・関与・環境を設計していく思考様式を指す。
名将たちは「雰囲気のよいチーム」や「まとまりのある集団」を目的にはしていない。勝つために何が必要かを冷静に特定し、その条件が自然と満たされる構造をつくっているのである。

サッカーにおいて勝利は、90分間の戦術遂行、個の判断、コンディション、そして心理状態の積み重ねによって決まる。だからこそ監督の仕事は、戦術ボードを描くことだけでは終わらない。選手がその戦術を「実行できる状態」にあるかどうかまで含めて設計する必要がある。ここに、企業の組織リーダーやマネジャーの仕事との共通点がある。

名将たちが示す「勝利の逆算」の中身

カルロ・アンチェロッティ(ブラジル代表):「スター集団」をどう動かすかを逆算する

アンチェロッティのマネジメントを語るうえで欠かせないのは、「スター選手をどう制御するか」ではなく、「スター選手が自然に力を発揮する条件をどう整えるか」という視点である。
レアル・マドリード時代を見ても明らかなように、彼は細かな戦術指示で選手を縛るタイプではない。むしろ、試合の中で判断を委ねる余白を意図的に残してきた監督だ。

一方で、すべてを放任しているわけではない。守備時の最低限の約束事や、試合運びの大枠は明確に共有されている。任せる領域と整える領域を分け、そのバランスを取ることで、ベリンガムやヴィニシウスといった個が最大限に輝く状態をつくってきた。
アンチェロッティにとっての勝利条件は、「全員が同じ動きをすること」ではなく、「決定的な局面で、最も力のある選手が迷わず判断できること」なのである。

ユリアン・ナーゲルスマン(ドイツ代表):「勝ち方」を共通言語に落とす

ナーゲルスマンは、現代サッカーを象徴する監督の一人だ。データ分析、ポジショナルプレー、可変システムといった要素を駆使しながらも、彼が最も重視しているのは「理解」である。
選手がなぜその配置になるのか、なぜその判断が求められるのかを言語化し、共通認識として共有することに力を注いできた。

ドイツ代表では、単に戦術を押し付けるのではなく、「どう勝つか」をチーム全体の共通言語に落とし込むことを目指している。分析は目的ではなく、あくまで再現性ある勝利につなげるための手段だ。
選手が納得したうえで動くことで、ピッチ上の修正力や実行精度は格段に高まる。この「理解を通じた自律性の向上」こそが、ナーゲルスマンの逆算マネジメントの核心と言える。

リオネル・スカローニ(アルゼンチン代表):「エース依存」を捨てずに再設計する

スカローニの手腕が際立ったのは、メッシという絶対的エースを抱えながら、チーム全体のバランスを再設計した点にある。
彼はエース依存を否定しなかった。むしろ、メッシが最も力を発揮する局面を明確にし、それ以外の時間帯や局面で周囲が機能する構造をつくった。

守備時の献身、局面ごとの役割分担、若手への実戦経験の付与。これらはすべて、短期的な勝利と中長期的な世代交代を同時に成立させるための設計だった。
決勝トーナメントの緊張感の中でもチームが崩れなかった背景には、「誰が何を担うのか」が明確だったことがある。スカローニは、依存を排除するのではなく、依存構造そのものを再定義したのである。

多くの企業が陥りやすい「成果逆算」の盲点

ここまで見てきた名将たちの共通点は、勝利条件を具体的に定義している点にある。一方で、多くの企業では「成果逆算」が十分に機能していないケースが少なくない。

盲点① 成果は定義しているが「勝ち方」が抽象のままである

多くの企業では、売上や利益、KPIといった成果指標は明確に設定されている。一方で、その成果がどのようなプロセスや役割分担によって実現されるのかという「勝ち方」まで具体化されていないことが多い。結果として、目標は共有されているものの、現場では「何を優先すべきか」「どこで力を使うべきか」が人によって解釈され、行動にばらつきが生じる。

これはサッカーで言えば、「勝つこと」だけを掲げ、守備の基準や攻撃の狙いどころが曖昧なまま試合に臨む状態に近い。成果を逆算するとは、数値目標を置くことではなく、誰がどの局面でどの判断を担えば勝ちにつながるのかを設計することである。

盲点② 公平性の重視が状況差を扱いにくくする

企業において公平性は重要な価値である。しかし、その解釈が「全員を同じように扱うこと」に偏りすぎると、かえって組織の機能を損なう場合がある。役割の重さや置かれている状況が異なるにもかかわらず、関与の仕方や期待水準を一律にしてしまうと、現場では不合理感が蓄積されていく。

名将たちは、同じ選手を同じように扱うことよりも、「誰に、いつ、どの程度の自由度や責任を与えるか」を状況に応じて調整している。重要なのは恣意性ではなく、調整の基準が明確であることだ。企業でも、公平性と柔軟性を両立させる設計が求められている。

盲点③ 「失敗しない制度」が「勝ちにいく余白」を削る

リスクを最小化するために設計された制度は、短期的には安定をもたらす。しかし、それが行き過ぎると、挑戦や学習の機会が失われ、組織全体の成長速度が落ちてしまう。
失敗しないことを前提にした評価や配置では、無難な選択が優勢になる。結果として「勝ちにいくための一手」が打たれなくなる。

サッカーでも、失点を恐れるあまり前に出られないチームは、最終的に勝利を手放すことがある。企業でも同様に、一定の失敗を許容する余白がなければ、再現性ある成果にはつながりにくい。

VUCAを生き抜く組織リーダーに求められるのは、「勝ち筋」を描くチームマネジメント

ここまでの示唆は、企業組織内においてサッカーの監督に近い役割を担う組織リーダーやマネジャーに役立つと思われる。

着手点① 勝ち方を人材要件と運用要件に分解する

組織リーダーがまず行うべきは、「自部門の勝ち方」を分解することである。
どの局面で、どの役割が、どの意思決定を担うのか。これを明確にし、メンバーに共有する。共有とは、言葉と行動をそろえる作業である。勝ち方が言語化されれば、現場の優先順位がそろい、マネジメントの一貫性が高まる。

着手点② 状況に応じた関与を可能にする運用設計

次に重要なのは、関与の仕方を固定化しないことである。役割の重さ、経験、局面の緊急度によって、関与の深さや期待の置き方は変わる。
この調整を場当たりにしないために、組織リーダーは「何を任せ、何を整えるか」という基準を先に持つ必要がある。基準があれば、柔軟な運用が恣意性に見えにくくなる。

着手点③ 勝ちにいくための余白を確保する

最後に、勝ちにいくための余白を意図的に残すことである。余白とは、挑戦と学習のための枠である。
期間限定の役割付与、テーマを絞った抜擢、兼務での機会付与など、失敗を最小化しつつ挑戦を可能にする設計は存在する。組織リーダーが余白を確保できれば、短期成果だけでなく、次の勝利を支える層が育つ。

結びに代えて

名将たちのマネジメントは、特別な才能の物語ではない。成果から逆算し、個が機能する条件を粘り強く設計しているに過ぎない。
組織リーダーが勝ち方を言語化し、運用を整え、余白を残す。その営みが「強さの再現性」をつくる。人事は、その営みを支える制度と仕組みを整える。両者が噛み合ったとき、組織は勝ち続ける確率を高められる。


※本記事は、執筆者個人の見解に基づき作成されたものであり、当社の統一的な見解を示すものではありません。

※本コンテンツの作成にあたり、一部 ChatGPT Enterprise を利用しておりますが、内容につきましては十分に精査し、問題ないことを確認しております。

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