退職率

退職率の定義から計算方法、日本の現状、高いことのデメリット、そして具体的な改善策まで網羅的に解説します。この記事を読めば、自社の退職率を正しく理解し、持続可能な組織運営のための具体的なヒントが得られます。

目次

退職率とは何か?その基本的な定義

退職率とは、ある一定期間において企業から退職した従業員の割合を示す、人事管理上の重要な指標です。 この数値は、企業の組織健全性や従業員満足度を測るバロメーターとして機能し、人材の定着状況を客観的に把握するために活用されます。

離職率との違い

「退職率」と「離職率」は、日常的に同じ意味で使われることが多いですが、公的な統計では「離職率」が一般的に用いられます。 離職率とは、自己都合退職、会社都合退職、定年退職、契約期間満了など、あらゆる理由による従業員の離職を総合的に含んだ割合を指します。 一方、退職率は広義では離職率と同義で使われることが多く、企業の人材流出の度合いを示す主要な指標として認識されています。

指標名 定義 主な使用場面
退職率 一定期間内に企業を退職した従業員の割合。広義では離職率と同義。 一般的なビジネスシーン、社内での人材定着状況の把握。
離職率 自己都合、会社都合、定年など、あらゆる理由による従業員の離職を総合的に含んだ割合。 厚生労働省などの公的統計、労働市場の動向分析。

なぜ企業にとって退職率が重要なのか

退職率は、企業の持続的な成長と組織運営において極めて重要な指標です。その主な理由は以下の通りです。

  • 採用・教育コストの増大: 従業員が退職するたびに、新たな人材の採用活動や教育研修に時間と費用がかかります。これは企業の経営資源を圧迫します。
  • 組織全体の生産性低下: 退職による業務の引き継ぎやノウハウの喪失は、チームの生産性を低下させ、組織全体の競争力に悪影響を及ぼします。
  • 企業イメージの悪化と採用への影響: 高い退職率は、ネガティブな企業イメージに繋がり、「働きにくい会社」という印象を与えかねません。 これは、優秀な人材の採用を困難にするだけでなく、既存従業員のモチベーションにも悪影響を与えます。

このように、退職率の動向を把握し、その原因を分析することは、健全な組織運営と競争力強化のために不可欠です。

退職率の計算方法と種類

退職率を正確に把握することは、企業の健全性を測る上で不可欠です。ここでは、その基本的な計算方法と、目的に応じた異なる種類の退職率について解説します。

一般的な退職率の算出式

退職率とは、特定の期間内に退職した従業員の割合を示す指標です。最も一般的な計算式は以下の通りです。

退職率 = (一定期間内の退職者数 ÷ 期間開始時の在籍従業員数) × 100

この「一定期間」は、通常、月単位、四半期単位、または年単位で設定されます。また、分母となる「期間開始時の在籍従業員数」の代わりに、「期間中の平均在籍従業員数」を用いる場合もあります。計算式の選択は、分析の目的や企業の慣習によって異なります

新卒退職率とは

新卒退職率とは、企業が採用した新卒社員が、入社から一定期間内に退職した割合を示す指標です。特に「3年以内離職率」として厚生労働省のデータでも注目されており、新卒社員の定着状況を測る上で重要な数値となります。

新卒退職率が高い場合、新卒採用のミスマッチ、入社後の教育体制の不備、あるいは職場環境の問題などが考えられます。この数値は、企業の採用戦略や育成プログラムの有効性を評価するための重要な手がかりとなります。

自己都合退職率とは

自己都合退職率とは、従業員が自身の意思で退職した割合を示す指標です。例えば、キャリアアップ、転職、家庭の事情などがこれに該当します。会社都合による解雇や定年退職などは含まれません。

この指標は、従業員が企業に留まるモチベーションや満足度を測る上で非常に重要です。自己都合退職率が高い場合、給与や評価への不満、人間関係の問題、ワークライフバランスの欠如など、従業員のエンゲージメントに関わる潜在的な課題がある可能性を示唆しています。企業は自己都合退職の理由を詳細に分析することで、より効果的な離職防止策を講じることができます。

日本の退職率の現状と平均値

日本における退職率は、経済状況や社会情勢の変化に伴い変動していますが、厚生労働省が実施する「雇用動向調査」によってその全体像が定期的に把握されています。この調査は、日本の労働市場における入職・離職の実態を明らかにする重要な統計データです。

厚生労働省のデータに見る全体像

厚生労働省が公表した令和5年「雇用動向調査」の結果によると、日本の年間離職率は15.4%でした。これは前年の15.0%と比較して0.4ポイント上昇しており、2009年から2023年の間ではおおむね15〜16%で推移しています。また、入職率が16.4%であったことから、入職超過率は1.0ポイントとなり、前年よりも拡大しています。

性別に見ると、女性の離職率が男性よりも高い傾向にあることも指摘されています。特に、新卒入社者の3年以内離職率は、大卒で約34.9%、高卒で約38.4%と、若年層ほど退職率が高い傾向が見られます。これは、3人に1人以上が最初の職場を3年以内に離職しているという現状を示しており、職場環境のミスマッチやキャリア観の変化が影響していると考えられています.

業界別・企業規模別の退職率

退職率は業界や企業規模によって大きく異なります。厚生労働省のデータに基づくと、特に退職率が高い傾向にあるのは以下の業界です。

産業分類 離職率(令和5年)
宿泊業・飲食サービス業 26.6%
生活関連サービス業・娯楽業 28.1%
サービス業(他に分類されないもの) 23.1%

一方で、電気・ガス・熱供給・水道業(10.4%)や製造業(18.5%:新卒3年以内)などは比較的低い離職率を示しています。これらの業界は、安定した労働条件や充実した福利厚生が整っていることが多いとされています。

企業規模別では、一般的に中小企業の方が大企業に比べて人材の流動性が高くなる傾向があります。これは、中小企業におけるキャリアパスの不透明さや、大企業に比べて教育体制が十分に整備されていないことなどが影響している可能性があります。

自分の会社の退職率を客観視するポイント

自社の退職率を客観的に評価するためには、単に数字を見るだけでなく、いくつかの視点から分析することが重要です。

業界平均・企業規模平均との比較

まずは、自社が属する業界や同規模の企業における平均退職率と比較してみましょう。業界や企業規模の平均値を把握することで、自社の退職率が相対的に高いのか低いのかを判断する基準となります。ただし、平均値はあくまで参考値であり、同じ業界内でも企業文化や事業形態によって差があるため、平均よりも低いからといって油断はできません.

退職率の推移とトレンド分析

過去数年間の自社の退職率の推移を追うことで、一時的な変動なのか、長期的なトレンドなのかを把握できます。特定の年に退職率が急増している場合は、その原因を深掘りして分析することが重要です。例えば、組織変更や人事制度の改定、特定のプロジェクトの終了などが影響している可能性も考えられます。

入職率とのバランス

退職率だけでなく、入職率とのバランスも重要です。入職率が退職率を上回っていれば、組織として人材が増加傾向にあると判断できます。しかし、入職率が退職率を下回る、あるいは同程度である場合、社員の退職に採用が追いついていない可能性があり、人材不足に陥るリスクが高まります。

退職理由の深掘り

退職者の声に耳を傾け、退職理由の「本音」を深く分析することが、退職率改善に向けた最も重要なステップです。表面的な退職理由だけでなく、人間関係、労働時間、評価制度、キャリアパスなど、多角的な視点から原因を特定することで、より効果的な対策を講じることができます。

退職率が高いことのデメリット

採用・教育コストの増大

退職率が高い企業では、常に新たな人材の採用と教育に多大なコストを投じる必要があります。一人の従業員が退職するたびに、企業は欠員を補充するための採用活動を開始し、これには求人広告費、人材紹介会社への手数料、そして選考に関わる人事担当者や現場マネージャーの人件費が発生します。採用が成功した後も、新入社員が業務に慣れ、一人前になるまでの期間には、研修費用、OJT(On-the-Job Training)担当者の時間、そして業務習熟までの生産性低下という見えないコストがかかります。これらのコストは、特に専門性の高い職種や経験豊富な人材の場合、企業の財務状況を圧迫する大きな要因となります。

コストの種類 具体的な内容
採用コスト 求人広告掲載費、人材紹介会社への成功報酬、採用イベント出展費、採用担当者の人件費、面接官の時間的コスト
教育コスト 新入社員研修プログラム費用、OJT担当者の人件費、業務マニュアル作成・更新費用、新入社員の業務習熟までの生産性低下分
間接コスト 引継ぎ業務の発生、既存社員の業務負荷増大、欠員による機会損失

組織全体の生産性低下

従業員の退職は、単に人員が減るだけでなく、組織全体の生産性にも深刻な影響を及ぼします。経験豊富な社員が退職すると、彼らが培ってきた知識やスキル、ノウハウが失われ、プロジェクトの進行が滞ったり、業務品質が低下したりする可能性があります。残された従業員は、退職者の業務を一時的に引き継ぐ必要があり、一人当たりの業務量が増加します。これにより、既存社員の残業が増え、疲労やストレスが蓄積し、モチベーションの低下やさらなる退職を招く悪循環に陥ることも少なくありません。チームワークやコミュニケーションにも悪影響を及ぼし、組織全体の士気や一体感が損なわれることで、結果として生産性の大幅な低下を招きます。

企業イメージの悪化と採用への影響

退職率が高いという事実は、社内外に企業のイメージを著しく悪化させる要因となります。社外に対しては、求職者や顧客、取引先、そして投資家にとって、高すぎる退職率は「何か問題があるのではないか」という不信感につながります。特に、SNSや口コミサイトが普及した現代において、ネガティブな情報は瞬く間に拡散し、企業のブランドイメージを損なう可能性があります。これにより、優秀な人材の獲得がより困難になり、採用活動が長期化・高コスト化する傾向にあります。また、顧客や取引先からの信頼を失い、事業機会の損失につながることも考えられます。一度失われた企業イメージを回復させるには、多大な時間と労力が必要となります。

退職率を改善するための具体的な施策

退職原因の特定と分析

効果的な退職者面談の実施

退職者面談は、退職の真の理由を把握するための重要な機会です。退職者が本音を話しやすい環境を整え、建設的なフィードバックを得ることが、今後の改善策を講じる上で不可欠となります。面談は退職が決定してからではなく、早期に実施し、定型的な質問だけでなく個別の事情に深く踏み込む姿勢が求められます。

従業員アンケートの活用

定期的な従業員アンケートは、潜在的な不満や改善点を早期に発見する上で有効です。匿名性を確保し、正直な意見を引き出すことで、組織全体の課題を定量的に把握し、具体的な施策へと繋げることができます。従業員エンゲージメントサーベイなどを活用し、従業員の声を吸い上げる仕組みを構築しましょう。

従業員エンゲージメントの向上

コミュニケーションの活性化

従業員が会社や同僚との繋がりを感じられるようなコミュニケーションの活性化は、エンゲージメントを高める上で重要です。部署や役職を超えた交流の機会を設けたり、上司と部下の定期的な1on1ミーティングを推奨したりすることで、心理的安全性の高い職場を醸成し、孤立感を解消します。

承認と評価の機会創出

従業員は自身の貢献が認められ、正当に評価されることを望んでいます。日々の業務における小さな成功や努力に対しても、積極的に承認の言葉をかけ、適切な評価を行う機会を増やすことで、モチベーションの維持・向上に繋がり、会社への帰属意識を育みます。

働きやすい職場環境の整備

ワークライフバランスの推進

長時間労働の是正や柔軟な働き方の導入は、従業員の満足度を高め、離職を防ぐ上で不可欠です。リモートワーク、フレックスタイム制度、短時間勤務制度などの多様な働き方を導入し、育児や介護と仕事の両立を支援することで、従業員が安心して長く働ける環境を提供します。

ハラスメント対策と相談窓口の設置

ハラスメントは、従業員の心身の健康を害し、退職に直結する深刻な問題です。ハラスメント防止のための明確な方針を定め、全従業員への周知徹底、研修の実施を行います。また、匿名で安心して相談できる窓口を設置し、迅速かつ公正な対応をすることで、従業員の信頼を得ることが重要です。

公平な評価制度とキャリアパスの明確化

評価基準の透明化

従業員が自身の評価に納得し、今後の成長に繋げられるよう、評価制度の透明性を高める必要があります。評価基準を明確にし、評価者による主観が入りにくい客観的な指標を導入することで、公平感を醸成し、評価に対する不信感を解消します。

キャリア開発支援の強化

従業員が自身の将来像を描き、その実現に向けて会社が支援する姿勢を示すことは、長期的な定着に繋がります。定期的なキャリア面談の実施、社内公募制度、資格取得支援、研修プログラムの提供などを通じて、従業員のスキルアップやキャリアアップを積極的にサポートしましょう。

まとめ

退職率は企業の持続的な成長に不可欠な経営指標です。高い退職率は採用・教育コストの増大や生産性の低下、企業イメージの悪化を招くため、その原因を特定し、従業員エンゲージメントの向上、働きやすい職場環境の整備、公平な評価制度の導入など具体的な改善策を実行することが、企業の未来を築く上で極めて重要です。

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